砂に足をとられて高校の時野球部一速かったらしい俊足の洋一が転ぶ。

『そんなに慌てなくてもなくならないよ』

クスクス笑って言えば、洋一が手を伸ばしたのでその手を引っ張る。洋一はその反動で立ち上がり、そのまま私のことを押す。慣れない足場に、私もその場で手をつく。

「ヒャハハ!名前も転んでやんの!」

『洋一のせいでしょ!』

飛行機で何十時間もかかって来たこの場所。ブラジル。さすが地球の裏側。日本語なんて右を見ても左を見てもどこにも見当たらなかった。そんなところに私達はハネムーンで来ている。

立ち上がって、二人で砂漠を歩く。生い茂った緑のジャングルを越えて、こんな白い砂漠が大きく広がっているところがあるなんて、私たちの物差しでは計り知れないことだ。しばらく歩けば、目指していた碧が見えた。

『洋一!あれだ!』

「すげぇ!!湖超ある!」

子供のように目を輝かせている洋一。 何だかんだってここに来たいと言ったのは洋一の方なのだ。私自身、テレビで見たことはあったが、ブラジルと聞くと腰は重くなる。地球の裏側まで行くとなるとお金もかかるし時間も必要だ。ましてやベストシーズンは6月。その辺りに結婚となれば、お金は本当にたくさんかかる。それでも行きたい。そう言った洋一に私は特に何も考えずにうんと返していた。

湖のほとりについて、二人でズボンの裾をまくった。湖に入るためである。この湖の名前は、ラゴア・デ・ペイシェ。ポルトガル語で魚のいる湖という意味があるらしい。

ガイドさんに教えてもらったが、ここの砂漠の湖は雨期にしか現れない。乾期になればなくなってしまう湖。そんなところに魚が生きているのだ。

「お!魚いたぞ!」

洋一はザパザパと子供のように入っていった。そしてその手に小さな小さな魚を捕まえて見せたのだ。

『多分捕まえたらダメだよこういうとこの生き物』

そう言ったら、洋一が少しはにかんだように笑う。

「この魚だろ!すげぇの!俺たちの子供もそのくらい強く生まれてこい!」

洋一はそう言って、手の中の魚を逃がした。

『は…』

私たちにまだ子供はいない。そんな予定も今のところたっていない。まぁ、ほしいけど。でもそんなこっ恥ずかしいことを言って、いつものように馬鹿みたいに笑っている洋一を見たら何だかはしゃぎたくなってしまって。

『ねぇ洋一!もし生まれてくるなら男と女どっちがいい!?』

少し遠くまで入っていった洋一に叫ぶ。

「どっちでもいいけど元気で俺に似てたらいい!」

『え!私にも似ててほしい!』

周りを歩いているヨーロッパからの観光客が、私たちを微笑ましく見ているような気がした。言葉はきっと通じてないけれど。まぁ、日本人が少なくてよかったなんて思う。

洋一が私のことを迎えに来る。私は私よりも大きな浅黒い手を握って、湖の深いところへと一緒に進んでいった。



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